THE 読物  〜東月彦の小説〜

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zoom RSS 怪譚 屏風の虎

<<   作成日時 : 2019/05/03 00:54   >>

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怪譚 屏風の虎
第一話 屏風の虎
第十一回


※令和元年おめでとうございます。
 新しい時代の、みなさまのご多幸をお祈り申し上げます。
                      東月彦


     ◇
 もうすぐ安土城も完成するところまで来ていた。
 相変わらず金太郎は、兄弟子たちにこき使われていたのである。
 その日は、兄・永徳が朝からピリピリしていた。
 なぜなら、この城の主である信長公が 城の完成具合を見にきていたからである。

 信長公は戦でもないのに、黒光りする鉄の鎧を着ておられた。
 異国の侍の武具らしい。
 外国では、こんな格好で戦うのだろうか。
 決して魔王には見えなかった。

 いうまでもなく、安土城は軍事要塞である。
 しかしながら、近年の調査・研究によれば、天守閣には、宗教的、倫理的な障壁画が多かったようである。
五階(五層)と六階(六層)には、『釈迦説法図』や、孔子の杏壇、太公望、文王などが描かれていたという。
 それらの絵画を、永徳をはじめとする狩野の集団(工房)が制作したようである。

 武家の城というより、足利義満が建てた鹿苑寺金閣のような対外的(諸外国への)迎賓館的施設という要素も多分に含まれていたと思われる。
 無論、絶大な権力の誇示であることはいうまでもないが……。

 永徳は、『釈迦説法図』を描いているところであった。
 金太郎は呼ばれて、その部屋へ行った。
「お呼びですか?」
「ああ、おまえか……」
 永徳がにこっと微笑する。

「はい」
「すまないが、筆洗の水を替えてきておくれ」
「はい。……他には」
「取りあえず、それをお願いするよ」
「わかりました」

「燃やさないでおくれよ」
 不敵に、永徳が笑う。
「えっ?」
「頼むからね」
「………」
 金太郎は気恥ずかしさで、顔を真っ赤にして、うつむく。
 過去は、未来の保証にならない時がある。

     ◇
 うわーっ!
 その夜、月山はまた悪夢を見て、絶叫していた。
 躰は、寝汗でびっしょりである。
 本当に気が狂いそうだった。

 月山には、ひとつの考えがふっと浮かぶ。
 ――……そうだ、あの屏風を破り捨てれば良いのだ。それとも、火をつけて燃やしてしまおうか。
 そうすれば、夜ごとつづくこの苦しみからも逃れられるのではないか。
 諸悪の根源は、あの屏風ではないのか。

 何でそんな単純なことに気がつかなかったのだろう、と月山は思った。
 うじうじ悩んでいても仕方がない。
 早速、行動に移そう。

 月山が仏間にたどり着き、照明をつける。
 そこには、本尊の釈迦牟尼仏が安置してあった。
 おごそかで気高い仏さまは、いつも変わることなくやさしい微笑を口元に浮かべておられる。
 そして屏風は、その部屋の片隅に置いてあった。

 どうかしたの?と、背後で声がした。
 月山が驚いて、ふり向く。
 賀歌だった。
 夫婦は、別々の部屋で寝ている。

「ねえ、こんな夜ふけに何をしてるの?」
 賀歌が訊く。
「………」
 月山は何も答えなかった。
「――ねえ?」
「……この」

「ええ?」
「……この屏風を、……処分しようと思って」
「処分?」
「……あっ、ああ」
「処分って言ったわよね?」
「うん」

「何で?」
「……そ、それは」
「どうなの?」
「ああ、燃やそうと……」
「燃やす?何、言ってんのよ!国宝になるかも知れない作品なのよ」
「………」

「正気?」
「当たり前だよ。きみには、この苦しみが分からない」
「苦しみ?」
「そうだ」
「でも、それって犯罪よね」
「……は、犯罪?」
 その言葉に、月山は狼狽える。

「当然でしょ。この屏風は、あなただけのものじゃないのよ。ましてや明月さんのでも、源龍寺のものでもない、国の宝なのよ!」
「……し、しかし」
「しかしもないわよ。最低」
 と、賀歌は、スマホのダイヤルをプッシュし始める。

「どこに電話してるんだ?こんな時刻に……」
 月山が訊く。
「………」
「なあ?」
「京都」
 賀歌が答える。

「……京都?」
「そう、源龍寺の明月さんのとこ」
「――明月!何のために?」
「いまのこの状況を、あの人に伝えるの」
「えーっ?」
「何て言うか、直接聞きたいのよ」

「――お、おい、よせよ!」
「………」
 賀歌は押し黙っている。
「なあ、止めろよ!」
「……だめね」
「えっ?」
「出ないわ」
 と、賀歌はスマホのスイッチを切る。

 月山がほっとして、
「そりゃあ、そうだよ。こんな時間だもん……」
「じゃあ、警察を呼ぶわ」
「け、警察!」
「もち論でしょ、目の前で犯罪が行われようとしてるのよ」
「………」

 賀歌はまた、スマホのダイヤルをプッシュしようとした。
「分かったよ、分かったよ」
 月山が怒鳴るように言い、
「……もう、やらないよ」
 と、大きな溜め息をつく。
 賀歌は、月山を睨みつけていた。
                     つづく

*参考文献『復元安土城』 内藤昌・著 講談社学術文庫








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