わさび②――wasabi

長編連載小説
『わさび②――wasabi』 第九回

 酷暑お見舞い申し上げます。(苦笑)
 冗談はさておき、本当に異常気象ですね。
 くれぐれもご自愛下さい。
         東月彦


     3.夏のマグロ
 その夜、あふひ、紫苑、梨里の三人は、”スカイズ”を使って、グループ・ビデオ通話をしていた。
 ”スカイズ”は、ウェブを通じて電話やチャットが、無料で出来るインターネットのサービスである。
 コロナが流行する前の話である。
 あふひは大阪、紫苑は茨城、梨里は東京にいた。

 あふひのノートパソコンの画面が分割され、紫苑と梨里が映し出されている。
 二人は、前髪に、ショッキングピンク色のヘアーカーラーを巻いていた。
「あふひ、久しぶり!」
 紫苑が言う。
「あふひ、元気?」
 梨里が手をふっている。

「ちょ、ちょっと、何よ――」
 あふひが憤慨している。
「どうした?」
 紫苑が訊く。
「うん?」
 梨里があふひを見つめている。

「何よ、その髪、リラックスし過ぎでしょ!場末の呑み屋のママじゃなんだから、ちゃんとしようよ」
「いいじゃん、いいじゃん。勝手知ったる仲なんだから」
「右に同じ、……あっ、左か?」
「でもさあ……」

「明日、朝早いし、忙しいのよ」
「左に同じ、……右?」
「もう!――梨里、あんたのその髪、それじゃサザエさんだよ」
「ほっとけ!」

「それと、パジャマの襟が、内側に折れてる」
「あっ、ホントだ!」
 梨里は慌てて、外にひっ張り出す。
「あのなあ……」
 あふひは溜め息をつく。

「あふひ、あんた、仕事どうなったの?」
 紫苑が訊く。
「あーあ。就活は、全敗だった」
 あふひがこたえる。
「そう。それで、どうすんの?」

「市役所で職員を募集してんのよね、それに応募するつもり」
「おお、天下無双の公務員」
「ていうか、就活であぶれた大学生を救済するために、一年だけ雇用するってこと」
「ふーん」

「梨里、あんた、どうしてたの?」
 紫苑が訊く。
「あたしね……」
 梨里がこたえる。

「うん?」
「あたし、結婚するかも……」
「えーっ?」
「――な、なぬー?」
 あふひと紫苑の声があまりに大きかったので、パソコンの画面が乱れた。

「あたし、この間、お見合いしたのよ……」
「それで、相手はどんな人?」
「うーん、あふひ……」
「うん?」

「商社マンなんだよね。もうイタリアに帰っちゃったけど」
「えーっ、そうなの?」
「うん……」
「うまく行きそうなの?」
「うーん、わかんない……」

「あんた、お見合い六回目だっけ?」
 紫苑が言う。
「そんなにやってんの?」
 あふひが驚く。

「言うなよ!」
 梨里がむくれる。
「スタンプラリーじゃないんだから……」
「何だよ、その言い方」
「たはっ!」

「あふひ、東京に戻っておいでよ」
 梨里が言う。
「……そうだねえ。戻りたいよねえ」
 あふひがこたえる。
「また、三人で暮らそうよ」
「いいねえ」

「紫苑、あんたはどうしてたの?」
 梨里が訊く。
「あたし?あたしは代わり映えしないなあ……」
 紫苑がこたえる。
「何か、あったんじゃないの……」
「うーん、ないなあ」

「おねえ、何かあったでしょ?」
「それは言うな!……ただ」
「ただ?」
「あたし、一大決心したのよ」
 紫苑が大真面目に言う。
「うん、何?」
 あふひが訊く。

「あたし、鮨職人になろうと思うの……」
「へっ?」
「えーっ?」
「うん、決めたんだ」

「太郎さんのとこへ行くの?」
 梨里が訊く
「うーん、まだ決めてない」
 紫苑がこたえる。

「本気?」
 あふひが訊く。
「うん、マジだよ」
「……そう」
 あふひが紫苑を見た。
            つづく







  もう少し待ってて。






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