その後(あと)

連載長編小説『その後(あと)』 第二章 呪われし曲 第八回      ◇  国史大辞典によれば、音阿弥は、世阿弥の甥、観阿弥の孫にあたる。  世阿弥の弟である四郎の子で、幼少の頃は、世阿弥一座と行動を共にしていたようである。  しかし、のちの六代将軍・足利義教に早くから寵愛され、その後援によって、大がかりな勧進能を行うよ…
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その後

連載長編小説『その後(あと)』 第一章 川端康成『山の音』をめぐって  第一回      1  最近、阿形真白(あがたましろ)は、目がちかちかすることに悩まされている。  急に目の前が光の帯に包まれたかと思うと、やたら眩しくて点滅するLED電球のようでもあり、突然稲光が光ったようにも見える。 光視症(こうししょう)か…
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永遠の処女――ある映画女優の生涯

長編小説『永遠の処女――ある映画女優の生涯』 第三章 永遠の処女 第十五回      1  その早朝、永田町にある富士ホテルの警備員が巡回を行っていた。  酷暑がおさまり、秋らしい気候になると、夜も長くなり、六時前だというのにいまだ薄暗い。  地下駐車場の入口の脇に、何か奇妙な物体があった。  ――!  よく見ると、何…
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永遠の処女――ある映画女優の生涯

長編小説『永遠の処女――ある映画女優の生涯』 第二章 第十三回 鎌倉の妖婦  先月までの猛暑が嘘のように、十月になってようやく朝夕は、秋らしい気温になった。  映美は愛車に乗り込み、フレンチフライをむしゃむしゃ食べ、コーヒーを飲んでいる。  まだ朝の八時前で、ルリ子の家の門は固く閉ざされたままだ。  お手伝いの明美も、出て…
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永遠の処女――ある映画女優の生涯

長編小説『永遠の処女――ある映画女優の生涯』 第二章 第十二回 鎌倉の妖婦  「東京は面白いですね、来るたびに表情が変わる」  金野が窓外を見ながら言う。  街はオレンジ色に染まりつつあり、一日が終わろうとする時刻であった。  映美はどう答えて良いか分からず、黙って東京タワーを見ている。 「スラヴィスタン共和国をご存じで…
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永遠の処女――ある映画女優の生涯

長編小説『永遠の処女――ある映画女優の生涯』 第二章 鎌倉の妖婦 第九回  その夜、映美は、ルリ子の自宅に招かれていた。  知人から近江牛をもらったとのことで、二人ですき焼きということになったのである。  上質な霜降りの牛肉が、じゅうじゅうと音をたて、甘い香りを漂わせている。 「おいしい!」  肉を食べ、映美は感嘆の声を…
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永遠の処女――ある映画女優の生涯

長編小説『永遠の処女――ある映画女優の生涯』 第二章 鎌倉の妖婦 第七回 「あなた、本当に樂一監督の娘さんなの?」  星加ルリ子が唐突に訊く。  彼女は、二十五年前と何も変わらない姿でそこに立っている。 「……は、はい」  しどろもどろで映美が答える。 「……映美ちゃんだっけ?」 「――そ、そうです!」  彼女の胸…
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永遠の処女――ある映画女優の生涯

長編小説『永遠の処女――ある映画女優の生涯』 第二章 鎌倉の妖婦 第六回      1  まさに大豪邸であった。  延々とつづくなまこ壁があり、その向こうにコナラ、モミジ、ユズリハなどの枝が見えている。  かつての大々名の上屋敷か、豪商の邸宅のようだった。  その家は、鎌倉・建長寺近くの雪ヶ谷というところにある。  ち…
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永遠の処女――ある映画女優の生涯

長編小説『永遠の処女――ある映画女優の生涯』 第一章 消えた大女優 第四回  映美は京都へ向かう新幹線の中で、先日の会議での源遥CPとの会話を思い出していた。  のぞみは、浜松を過ぎたところだった。 「娘ってどういうことですか?」  映美が訊く。 「娘って、娘ってことよ」  当然といった顔で、遥が言う。 「はあ?」 …
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永遠の処女(とわのおとめ)――ある映画女優の生涯

長編小説『永遠の処女(とわのおとめ) ――ある映画女優の生涯』 第一章 消えた大女優 第三回      ◇  月曜日は、プレッシャーに押し潰されそうになっている。  深夜枠のコメディ・ドラマのシナリオで高評価を得、今回のゴールデンへの進出である。  深夜であれば、絶対的な視聴者の数も少ないので、遊び心満載の実験的な構成が…
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永遠の処女――ある映画女優の生涯

長編小説『永遠の処女(とわのおとめ) ――ある映画女優の生涯』 第一章 消えた大女優      1  その朝、ポータルサイトのニュース・トピックスに、小さな記事が載った。  旧ソ連邦独立国で、生体脳移植手術に成功か?  【モスクワ=石毛特派員】  中央アジアのスラヴィスタン共和国の国立中央病院は、生体脳移植手術に成功し…
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鹿の苑

連載長編小説『鹿の苑』 第一章 捨て子の章 第八回         3   天地(あめつち)の 神にぞ祈る 朝なぎの   海のごとくに 波たたぬ世を  MP3プレーヤーの小さなスピーカーから、ゆったりとした雅楽の音色が流れている。  巫女神楽『浦安の舞』である。  あきら加は、白い単衣に緋袴という衣装で、金色に輝…
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鹿の苑

連載長編小説『鹿の苑』 第一章 捨て子の章 第六回  その午後、笹田純一は、地下鉄御堂筋線の電車に揺られていた。  車両はひどく混んでいて、仕方なく弱冷車に乗ったため、ひどくむしむししていたのである。  彼は、ミナミのアメリカ村に行こうとしていた。  アメリカ村は、渋谷や原宿のように若者の街で、ブティック、カフェ、クラブ…
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鹿の苑

連載長編小説『鹿の苑』 第一章 捨て子の章 第五回 「きみ、御子なんだって?」  旅人が訊く。 「みこ?」  あきら加が怪訝な顔になる。 「きみ、神の子なんだって?」 「えっ?」 「予知能力があるんだって?」 「………」 「僕の未来も占ってよ」 「……占いじゃないから」  二人は、奈良・飛火野の丘陵を歩いて…
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鹿の苑

連載長編小説『鹿の苑』 第一章 捨て子の章 第四回       2  荘厳なパイプ・オルガンの音色が響いている。  ステンド・グラスから漏れる朝日が、七色に光っていた。  あきら加は、磔にされたキリスト像を見ている。  大阪生野にあるカトリックの高校のチャペルだった。  この春から、彼女は、その学校に入学したのである…
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鹿の苑

連載長編小説『鹿の苑』 第一章 捨て子の章 第二回  雲ひとつない秋晴れの午後だった。  ご神木の大銀杏は、黄金色に染まり、拝殿の裏には落葉が其処ここに散っている。  三歳になったあきら加は、境内で一人遊んでいた。  大銀杏の近くで、顔見知りの二、三名の主婦が何かしている。  あきら加が覗いてみると、主婦らは落下した銀…
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鹿の苑

連載長編小説『鹿の苑(しかのその)』 第一章 捨て子の章 第一回        1  その年の春は、長かった。  例年なら早咲きのソメイヨシノや、吉野しだれ桜が満開になって、陽気も暖かくなるのだが、急に真冬に舞い戻ってしまったのである。  気温が二月下旬頃くらいまで下がり、それが十日ほどつづいたのである。  だから、糸…
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花片

短編連作小説『桜のすべて』 第四部 花片 第五話      3  画架を前に 絵を描いて 夜を過ごしたものだった  デッサンに手を加え 胸の線や 腰の輪郭を書き直した  夜が明けて クリーム入りコーヒーを前に  やっと腰をおろした  疲れてはいたが うっとりとして  ふたりは愛し合い 人生を愛していた  ラ・…
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花片

短編連作小説『桜のすべて』 第四部 花片 第四話       ◇  北風の朝だった。  さすがに暁霧の岬といわれるだけあって、明け方には必ずといって良いほど、濃霧があふれ出てくるのである。  私は夜明け頃まで仕事をし、正午前には起床するという毎日を送っている。  依頼されているBKのラジオ・ドラマと、業界紙のコラムの仕…
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花片

短編連作小説『桜のすべて』 第四部 花片 第三話     2  近くのキャフェに仲間が集い 来るべき栄光を夢に見て  ぼくらはすっかりひとかどの人物になりきっていた  空き腹をかかえた みじめな暮らしにもかかわらず  未来を信じてやまなかった  ビストロの 温かい食事を前にして  ふたりでひとつのナプキンを使い 詩…
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