わさび②――wasabi

長編連載小説 『わさび②――wasabi』 第十一回     ◇  今回は、趣向を変えます。  なかがきとして――  ”なかがき”という日本語はありません。  小説には、”まえがき”、”あとがき”があります。  主に、作品に対する解説であったり、作者がその作品を書くに至った心情・経緯などが述べられていると…
コメント:0

続きを読むread more

わさび②――wasabi

長編連載小説 『わさび②――wasabi』 第十回  「そもそもさあ……」  紫苑が口をひらいた。 「うん?」  あふひが、紫苑を見た。  インターネット通話の最中である。 「あたしが、鮨職人になろうと決めたのは……」 「太郎さん?」  梨里が訊く。 「それもあるけど、今、あたし、地元の鮨屋でバイトしてるんだ…
コメント:0

続きを読むread more

わさび②――wasabi

長編連載小説 『わさび②――wasabi』 第九回  酷暑お見舞い申し上げます。(苦笑)  冗談はさておき、本当に異常気象ですね。  くれぐれもご自愛下さい。          東月彦      3.夏のマグロ  その夜、あふひ、紫苑、梨里の三人は、”スカイズ”…
コメント:0

続きを読むread more

わさび②――wasabi

長編連載小説 『わさび②――wasabi』 第八回  由自のスマホが鳴る。  液晶画面を見ると、銀座の回転寿司屋で働いている杉浦正晴だった。 「もしもし、――あっ、どうも」 「由自、助けてくれー!」  杉浦の叫び声が響く。 「へっ?」 「なあ、由自、頼むよ!」 「落ち着いてくださいよ、杉浦さん……」 「参っ…
コメント:0

続きを読むread more

わさび②――wasabi

長編連載小説 『わさび②――wasabi』 第七回      ◇  目白の椿山荘の庭園は、花の季節も終わり、まばゆいほどの新緑が映え、木もれ日がふり注いでいる。  小さな丘に石段があって、その横を小川が流れ、梨里はお見合いの相手と、散歩していた。  その静けさは、とても二十三区内とは思えない。  私市四郎(きさいち・…
コメント:0

続きを読むread more

わさび②――wasabi

長編連載小説 『わさび②――wasabi』 第六回      ◇  その午後、あふひは久しぶりに母・ゑ々子(ええこ)に会った。 「ほんまに久しぶりやね」  そう言って、母は紅茶を出してくれた。 「ありがとう」  あふひが言う。  母は離婚後、妹の明子(あきらけいこ)と、江坂のマンションに住んでいる。 「元気…
コメント:0

続きを読むread more

わさび②――wasabi

長編連載小説 『わさび②――wasabi』 第五回      2.無口な猫  紫苑は、茨城・水戸にある実家に帰っていた。  あふひ、梨里とシェアしていた四谷のマンションを引き払い、それぞれの道を歩みはじめたのである。  就職をあきらめ、経済学部・経済史学科の大学院生になり、週に三日ほど出席すれば良いので、戻る気になったのだ…
コメント:0

続きを読むread more

怪譚 屏風の虎

怪譚 屏風の虎 第一話 屏風の虎 第十六回      ◆ 金太郎が死んだ。  二十五歳だった。  あれから十年が経過している。 金太郎はすでに、『狩野永劫』を名乗っていた。 死が、いつも身近にあった時代である。 命が、軽い時代でもあった。 顛末(てんまつ)はこうだ。  金太郎は南は九州・高千…
コメント:0

続きを読むread more

怪譚 屏風の虎

怪譚 屏風の虎 第一話 屏風の虎 第十五回      六、終わりのはじまり  織田信長公が暗殺されてから、豊臣秀吉公が天下人になられた。  安土城の天守閣と本丸が焼失したとはいえ、絵師としての狩野永徳は、人一倍美的感覚が鋭かった信長公に認められ、その名は天下にとどろいたのである。  それでも、戦の時代は終わりそうに…
コメント:0

続きを読むread more

怪譚 屏風の虎

怪譚 屏風の虎 第一話 屏風の虎 第十四回      ◇ 犯(や)っちまって、殺(や)っちまえば良いんだよ。 その言葉が、月山の頭から離れなかった。  男は、その人生において三度、女に”翻弄”されるという。  一番最初は母親で、二番目は妻、そして最後は実娘である、と。 すべて”夜叉”である。 ど…
コメント:0

続きを読むread more

怪譚 屏風の虎

怪譚 屏風の虎 第一話 屏風の虎 第十三回      ◇  昨日、妻の賀歌はまた、実家へ帰った。  表向きの理由は前と同じ、父親の病のせいだという。  今度は長くなるかもしれない、と賀歌は言った。  月山は大きな吐息をつく。  連日の寝不足で、ぼーっとして集中力がなく、深く物事を考えられなくなっている。  しか…
コメント:0

続きを読むread more

怪譚 屏風の虎

怪譚 屏風の虎 第一話 屏風の虎 第十二回      五、黒いささやき  その朝、金太郎は元信に命じられて、膠液をつくっていた。  元信は、『夏冬芭蕉図屏風』の制作に没頭している。  狩野の屋敷は、京都御所の西、晴明神社の東にある。  中庭にあるイロハモミジの新緑が、光り輝いていた。  安土城の障壁画はようやく完成し…
コメント:0

続きを読むread more

怪譚 屏風の虎

怪譚 屏風の虎 第一話 屏風の虎 第十一回 ※令和元年おめでとうございます。  新しい時代の、みなさまのご多幸をお祈り申し上げます。                       東月彦      ◇  もうすぐ安土城も完成するところまで来ていた。  相変わらず金太郎は、兄弟子たちにこき使われていたのである…
コメント:0

続きを読むread more

怪譚 屏風の虎

怪譚 屏風の虎 第一話 屏風の虎 第十回  その朝、月山はまじまじと虎の屏風を眺めていた。  六曲一双の屏風で、経年による劣化が著しく、背景に金箔が施してあったが、所々にハゲが目立った。  右隻(うせき)には、墨による竹林の中で、一頭の虎が寝そべっている図で、左隻(させき)には、もう一頭の虎が大空にむかって咆哮する姿が描か…
コメント:0

続きを読むread more

怪譚 屏風の虎

怪譚 屏風の虎 第一話 屏風の虎 第九回  第四章 月夜  あれから一週間経過したが、賀歌はまだ帰っていない。  昨晩も、妻のスマホに連絡したが繋がらず、仕方なく実家の方に電話したが、忙しいという理由で出てこなかったのだ。  それに、病にふせっているはずの義父が電話口に出たのである。  絶対に浮気している。 …
コメント:0

続きを読むread more

怪譚 屏風の虎

怪譚 屏風の虎 第一話 屏風の虎 第八回     ◇ 炎のはぜる音がした。  母屋につけた紅蓮の火は、ますます勢いを増し、軒下にまで届きそうになっている。  金太郎はぼーっと火を眺めていたが、だんだん怖くなってきた。 「うぉおおおおおっ!」  と、熱さで頬を紅潮させて叫んだ。  いくら狩野の家を憎んでいると…
コメント:0

続きを読むread more

怪譚 屏風の虎

怪譚 屏風の虎 第一話 屏風の虎 第七回      ◇  また、スマホの呼び出し音が鳴った。  明月が、ちっと舌打ちする。  液晶画面を見ると、月山からの電話だった。  京都の源龍寺である。  朝の勤行(ごんぎょう)を終えたばかりであった。  昨晩から、電話は鳴りっぱなしなのだ。  やっと呼び出し音が止ま…
コメント:0

続きを読むread more

怪譚 屏風の虎

怪譚 屏風の虎 第一話 屏風の虎 第六回 新年明けましておめでとうございます。 本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。                  東月彦      第三章 真夜中の咆哮  何の音だ?いまのは……。  月山が、ハッと目覚めた。  四囲(あたり)は、真の闇の中にあり、月明かりも消えている…
コメント:0

続きを読むread more

怪譚 屏風の虎

 怪譚 屏風の虎  第一話 屏風の虎  第五回  その夜、賀歌は般若心経を写経していた。  静謐に硯(すずり)をうち、真摯に用紙にむかい、一心に筆をすべらせる。  かすかな息づかいだけが聞こえる。  どんな願いがあるというのか。  何を祈るというのか。  尋ねてみたかったが、曖昧に軽く一蹴されそうなので聞かなかっ…
コメント:0

続きを読むread more

怪譚 屏風の虎

 怪譚 屏風の虎  第一話 屏風の虎  第四回      ◇  その朝、湖は、死んだように美しかった。  朝日を浴びた水面は金色に輝いて、神々しく、数羽の都鳥(ユリカモメ)が波間に浮かんでいるのが見える。  その城は、まるで雲を突き抜け、天にまで届くのではないかと思われるほどの威容を示していた。  誰も見たことはな…
コメント:0

続きを読むread more