テーマ:読書

怪譚 屏風の虎

怪譚 屏風の虎 第一話 屏風の虎 第十三回      ◇  昨日、妻の賀歌はまた、実家へ帰った。  表向きの理由は前と同じ、父親の病のせいだという。  今度は長くなるかもしれない、と賀歌は言った。  月山は大きな吐息をつく。  連日の寝不足で、ぼーっとして集中力がなく、深く物事を考えられなくなっている。  しか…
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怪譚 屏風の虎

怪譚 屏風の虎 第一話 屏風の虎 第十二回      五、黒いささやき  その朝、金太郎は元信に命じられて、膠液をつくっていた。  元信は、『夏冬芭蕉図屏風』の制作に没頭している。  狩野の屋敷は、京都御所の西、晴明神社の東にある。  中庭にあるイロハモミジの新緑が、光り輝いていた。  安土城の障壁画はようやく完成し…
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怪譚 屏風の虎

怪譚 屏風の虎 第一話 屏風の虎 第十一回 ※令和元年おめでとうございます。  新しい時代の、みなさまのご多幸をお祈り申し上げます。                       東月彦      ◇  もうすぐ安土城も完成するところまで来ていた。  相変わらず金太郎は、兄弟子たちにこき使われていたのである…
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怪譚 屏風の虎

怪譚 屏風の虎 第一話 屏風の虎 第十回  その朝、月山はまじまじと虎の屏風を眺めていた。  六曲一双の屏風で、経年による劣化が著しく、背景に金箔が施してあったが、所々にハゲが目立った。  右隻(うせき)には、墨による竹林の中で、一頭の虎が寝そべっている図で、左隻(させき)には、もう一頭の虎が大空にむかって咆哮する姿が描か…
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怪譚 屏風の虎

怪譚 屏風の虎 第一話 屏風の虎 第九回  第四章 月夜  あれから一週間経過したが、賀歌はまだ帰っていない。  昨晩も、妻のスマホに連絡したが繋がらず、仕方なく実家の方に電話したが、忙しいという理由で出てこなかったのだ。  それに、病にふせっているはずの義父が電話口に出たのである。  絶対に浮気している。 …
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怪譚 屏風の虎

怪譚 屏風の虎 第一話 屏風の虎 第八回     ◇ 炎のはぜる音がした。  母屋につけた紅蓮の火は、ますます勢いを増し、軒下にまで届きそうになっている。  金太郎はぼーっと火を眺めていたが、だんだん怖くなってきた。 「うぉおおおおおっ!」  と、熱さで頬を紅潮させて叫んだ。  いくら狩野の家を憎んでいると…
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怪譚 屏風の虎

怪譚 屏風の虎 第一話 屏風の虎 第七回      ◇  また、スマホの呼び出し音が鳴った。  明月が、ちっと舌打ちする。  液晶画面を見ると、月山からの電話だった。  京都の源龍寺である。  朝の勤行(ごんぎょう)を終えたばかりであった。  昨晩から、電話は鳴りっぱなしなのだ。  やっと呼び出し音が止ま…
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怪譚 屏風の虎

怪譚 屏風の虎 第一話 屏風の虎 第六回 新年明けましておめでとうございます。 本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。                  東月彦      第三章 真夜中の咆哮  何の音だ?いまのは……。  月山が、ハッと目覚めた。  四囲(あたり)は、真の闇の中にあり、月明かりも消えている…
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怪譚 屏風の虎

 怪譚 屏風の虎  第一話 屏風の虎  第五回  その夜、賀歌は般若心経を写経していた。  静謐に硯(すずり)をうち、真摯に用紙にむかい、一心に筆をすべらせる。  かすかな息づかいだけが聞こえる。  どんな願いがあるというのか。  何を祈るというのか。  尋ねてみたかったが、曖昧に軽く一蹴されそうなので聞かなかっ…
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怪譚 屏風の虎

 怪譚 屏風の虎  第一話 屏風の虎  第四回      ◇  その朝、湖は、死んだように美しかった。  朝日を浴びた水面は金色に輝いて、神々しく、数羽の都鳥(ユリカモメ)が波間に浮かんでいるのが見える。  その城は、まるで雲を突き抜け、天にまで届くのではないかと思われるほどの威容を示していた。  誰も見たことはな…
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怪譚 屏風の虎

 怪譚 屏風の虎  第一話 屏風の虎  第三回      ◇  風景が飛ぶように流れている。  下りの、のぞみのグリーン車の車内には、明月がぽつんと乗車していた。  平日の午後遅くの列車だったので、車内は閑散としている。  京都の本山への帰路である。  ぼんやり窓外を見つめながら、明月は太い溜め息をついた。  …
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怪譚 屏風の虎

 平成30年台風第21号、平成30年北海道胆振東部地震で  被災された方々、心よりお見舞い申し上げます。                       東月彦  怪譚 屏風の虎  第一話 屏風の虎  第二回  西多摩郡の厳然寺には、一年前までは、住職がいたのである。  年老いているとはいえ、本山から命じられた僧侶が、…
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怪譚 屏風の虎

 怪譚 屏風の虎  第一話 屏風の虎  第一回      発端  何の音だ?いまのは……。  梛野月山(なぎのがっさん)が、心の中でつぶやいた。  四囲(あたり)は、真の闇の中にあり、月影さえない。  月山というのは、法号である。  つまり僧侶の名前ということだ。  時刻は午前二時をまわったところで、月山は、庫…
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わさび②――wasabi

長編連載小説 『わさび②――wasabi』 【閑話休題】  神坂雪佳(かみさかせっか)のこと、琳派のこと  ここ十年ほどのことだと思うが、書店の美術関係のコーナーに行くと、琳派のカテゴリーに、”神坂雪佳”の本が増えている。  私は琳派が好きで、ずっと研究してきたけれども、その名前を聞いたことさえなかった。  雪佳…
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わさび②――wasabi

長編連載小説 『わさび②――wasabi』 【閑話休題】  青山二郎のこと その一  正月休みに、青山二郎について調べ直してみた。  よく分からない。  それが正直な感想である。  青山が天才であるという由縁を挙げるとすれば、大正六、七年頃、彼が十六の歳に、疵物(きずもの)の宋釣窯の水盤を買い、骨董店の主人らを…
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わさび②――wasabi

長編連載小説 『わさび②――wasabi』 【閑話休題】  拝啓 夏目漱石先生  11月26日に放送されたEテレ『日曜美術館――漱石先生 この絵はお嫌いですか~孤高の画家 木島櫻谷(このしまおうこく)~』を拝見しました。  何か欠席裁判を見ているようで、あまり気分の良いものではなかったですね。  まず先生が文展(文部…
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わさび②――wasabi

長編連載小説 『わさび②――wasabi』 第四回  「ありがとうございました」  由自が、客に釣りを渡しながら言った。 「ありがとう存じます」  太郎が、頭を下げながら言う。  おう、ありがとう、また来るよ、とほろ酔い加減のふたりの男客が去ってゆく。  柳橋の屋台だった。 「今日は、これで終わりだな」  太郎…
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わさび②――wasabi

長編連載小説 『わさび②――wasabi』 【閑話休題】  毎日、江戸前寿司のことばかり考えていると頭が痛くなって(笑)、気分転換にNHKで放送されたドラマ『眩(くらら)~北斎の娘~』を見ました。  TVドラマを見るのは久しぶりです。  惜しいよな。  映画で撮れよ。  篠田正浩が昔撮った『写楽』みたいにさ。  …
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わさび②――wasabi

長編連載小説 『わさび②――wasabi』 第一回  第二章 大阪編      1  その朝、大阪は雨になった。  篠突く雨というのだろうか、雨戸を激しくたたく強いもので、深い眠りから目覚めるほどだったのである。  この雨で、造幣局の満開の八重桜も散ってしまうことだろう。  結局、あふひは就活がうまく行かず、どこに…
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わさび――wasbi

長編連載小説 『わさび――wasbi』 第九回      ◇  三浦紫苑は、その名前がきらいだった。  母親が、紫苑の花のように可憐で、しおらしく育って欲しいと願って、その名をつけたという。  しかし、彼女は身長が175あり、骨格もがっしりしていて、とてもいじらしいようには見えなかった。 「おはようございます」  …
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わさび――wasbi

長編連載小説 『わさび――wasbi』 第六回      ◇  その朝、あふひは学内のカフェで早めの昼食をとり、午後からは面接に行く予定だった。  志望順位は落ちるが、以前にエントリーしておいた大手旅行会社である。  出来るなら得意な語学を生かしたい、と考える。  カフェを出たところで、よう!と背後で男子の声がする…
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わさび――wasabi

※お知らせ※ 謹賀新年。 新年あけましておめでとうございます。 いつもご愛読いただきまして、誠にありがとうございます。 このたび、拙著「ゴシック・ホラー、あるいは、川端康成『山の音』 をめぐって――完全版」という電子書籍を、アマゾンで上梓し、無料 配布することとなりました。 短編小説「川端康成『山の音』をめぐって」…
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わさび――wasabi

長編連載小説 『わさび――wasabi』 第一回  第一章 柳橋篇      1  東京の三鷹市に、井の頭恩師公園という公園がある。  武蔵野の面影を色濃く残すその地から、湧き出る一滴の水が源流となり、神田川となるのである。  そして、その川は、都内を横切るかたちで、隅田川(大川)へと注ぐ。  その水流の行きつく先…
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その後(あと)

※「平成27年9月関東・東北豪雨」で、被災された方々、心からお見舞い申し上げます。                                    東月彦 連載長編小説『その後(あと)』 第二章 呪われし曲 第十八回      ◇  月も星もない夜だった。  風もなく、蒸し蒸しして、雨になるのではない…
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その後(あと)

連載長編小説『その後(あと)』 第二章 呪われし曲 第十七回      ◇  べっ甲色の月が浮かんでいる。  不気味な、血の色のような鈍い輝きを持っていた。  広大な庭には、能舞台が設けられ、篝火が其処等じゅうに焚かれ、真昼のような明るさである。  今、切戸口から地謡座と後見が出てくるところであった。  赤松家の御邸…
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その後(あと)

連載長編小説『その後(あと)』 第二章 呪われし曲 第十六回      4 「話って何?」  苛立ちを抑えて、能楽師の金色正顕が訊いた。 「……ええ」  芸妓の朱夏が曖昧に答える。 「謡曲『平城』のことなら、心配しないでくれ。この間言ったように、演らないからさ」  正顕は嘘を言った。  彼女にバレないように、日毎…
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その後(あと)

連載長編小説『その後(あと)』 第五章 回転扉の三島由紀夫を追いかけて。 第十五回 【閑話休題】 なでしこJAPAN、うーん、残念でした。 5失点目が痛かったですねえ。 2-4のまま、終盤にまで行ければ、どうなってたか分からなかったと思います。 アメリカの守備陣も、浮足立っていましたしね。 しかし、完全アウェイの状態…
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その後(あと)

連載長編小説『その後(あと)』 第五章 回転扉の三島由紀夫を追いかけて。 第十四回      ◇  かつて、ひとつの映画があった。  故若松孝二監督の遺作となった『11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち』という映画である。  厳密には、同年にクランク・アップされた中上健次原作の『千年の愉楽』が、本当の最後の作品であるら…
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その後(あと)

連載長編小説『その後(あと)』 第二章 呪われし曲 第十一回      ◇  金色与十郎の家は、鳥辺野の近くにあった。  そこら辺りは、北の蓮台野、西の化野と並ぶ京都の墓地、葬送の地といわれている。  鳥辺野はかつて、阿弥陀ヶ峰・北麗の清水寺の南西から、南麗の今熊野にいたる丘陵をいったようである。  五条通りより南側の…
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その後(あと)

連載長編小説『その後(あと)』 第二章 呪われし曲 第十回      3  能楽師の金色正顕は、密かに謡曲『平城』の練習に励んでいた。  秘密といっても、恋人の朱夏に内緒にしているだけであって、スタッフや家族はすべて知っている。  今秋は、開祖・伝阿弥(金色与十郎)の生誕六一〇年にあたる。  また、急逝した祖父・清右衛…
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