テーマ:恋愛

花片

短編連作小説『桜のすべて』 第四部 花片 第五話      3  画架を前に 絵を描いて 夜を過ごしたものだった  デッサンに手を加え 胸の線や 腰の輪郭を書き直した  夜が明けて クリーム入りコーヒーを前に  やっと腰をおろした  疲れてはいたが うっとりとして  ふたりは愛し合い 人生を愛していた  ラ・…
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THE 読物 ~東月彦の小説~

短編連作小説『桜のすべて』 第四部 第三話 海津大崎     2 近くのキャフェに仲間が集い 来るべき栄光を夢に見て ぼくらはすっかりひとかどの人物になりきっていた 空き腹をかかえた みじめな暮らしにもかかわらず 未来を信じてやまなかった ビストロの 温かい食事を前にして ふたりでひとつのナプキンを使い 詩句を口ずさ…
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THE 読物 ~東月彦の小説~

短編連作小説『桜のすべて』 第四部 第二話 海津大崎  シルバーメタリックの欧州車が疾駆していた。  その朝、萬の車で、別荘まで送ってもらうことになったのである。  車は、琵琶湖西岸の国道161号線を北上していた。  なぜか、ホステスのミカが助手席に同乗している。  その日は比較的暖かく、風もおだやかで、湖に…
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THE 読物 ~東月彦の小説~

短編連作小説『桜のすべて』 第四部 第一話 海津大崎      1 いまはもう遠い 二十歳にも満たない日々の 話をしよう モンマルトルのアパルトマンの ふたりの部屋の窓には リラの花が咲いていた 粗末な家具付きの部屋が ふたりの愛の巣で 見た眼にはぱっとしなかったが そこでふたりは知り合い ぼくはろくに食べるものさえ…
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THE 読物 ~東月彦の小説~

短編連作小説『桜のすべて』 第三部 第九話 淡墨――一千五百年の悦楽  翌朝、校門の前で、きららに会った。  わたしが、おはようと声をかけても、何の返答もない。 「………」  彼女の顔色は真っ青で、亡霊が歩いているように見えた。 「……調子、悪い?」 「………」  よく見るときららは、何かを思いつめたかの…
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短編連作小説『桜のすべて』 第三部 第八話 淡墨――一千五百年の悦楽      雑歌  二週間経って、ようやくきららは学校に出てきた。  しかし、ひどく痩せて、顔色も悪く、病み上がりそのものだったのである。  理由を訊いても、曖昧に答えるだけだった。  その夕方、赤茶色の築地塀がつづく道を、維仁が歩いている。…
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短編連作小説『桜のすべて』 第三部 第七話 淡墨――一千五百年の悦楽  のどかな日曜日はずだった。  だが、遠い親戚に不幸があり、両親が出かけることになり、ガソリン・スタンドの店番をやらされるはめになったのである。  普段は、受験勉強にかこつけて、ほとんど手伝わないのだが、火急の事態なので、渋々引き受けた。  …
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短編連作小説『桜のすべて』 第三部 第六話 淡墨――一千五百年の悦楽  昼休み。わたしはまた、果汁グミをくちゃくちゃ食べながら、校舎の屋上から、市内をぼんやり眺めていた。  初夏の陽光を浴びて、長良川の川面がきらきら煌めいているのが見える。  この三日間、きららはずっと休んでいる。  携帯に電話しても、メールし…
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THE 読物 ~東月彦の小説~

短編連作小説『桜のすべて』 第三部 第五話 淡墨――一千五百年の悦楽      相聞歌  その角を曲がると、赤茶色の築地塀がつづく道に出た。  そこは、旅館か料亭の裏通りといった趣きで、二十メートルほど先に、維仁の後姿が見えている。  塀の向こうに、古びた日本家屋と、いくつかの樹木が覗けた。  花見以来、わた…
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短編連作小説『桜のすべて』 第三部 第三話 淡墨――一千五百年の悦楽  昼休み。わたしは、果汁グミをくちゃくちゃ食べながら、校舎の屋上から、市内をぼんやり眺めていた。  高校は小高い丘陵にあり、街を一望できたし、天気が良ければ、長良川の川面の煌めきも見ることができる。  すると同じクラスの青タンと、赤タンがやって…
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短編連作小説『桜のすべて』 第三部 第二話 淡墨――一千五百年の悦楽 「おかしいよ、その人」  監物きららが言った。 「そうだよ、きっと、これだよ」  栗栖明子(くりすめいこ)が手指で、クルクルパーをつくる。  わたしたちの通う高校は、岐阜市内にあり、県下でも三本の指に入る進学校だった。 「そんなんじゃない…
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短編連作小説『桜のすべて』 第三部 第一話 淡墨――一千五百年の悦楽      挽歌  淡墨桜(うすずみざくら)は、岐阜県本巣市(旧本巣郡根尾村)の淡墨公園にある樹齢一千五百年ほどのエドヒガンザクラのことである。  その花びらは、蕾のときは薄いピンクで、満開になって白色、散るときに淡い墨色になるという。  淡墨桜という…
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短編連作小説『桜のすべて』 第二部 第七話 御所の北 寺町今出川上ル  玖珠子と歌子は、その部屋で待たされていた。  府庁のそばにある赤十字病院の小さな会議室だった。  これから、泰淳の病気のインフォームドコンセントが行われることになっている。  ドアをノックする音が聞こえた。 「はい」  玖珠子が答える。 …
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短編連作小説『桜のすべて』 第二部 第五話 御所の北 寺町今出川上ル      非凡  白鷺が水面をじっとみつめている。  獲物を見つけたのか、もう五分ほど、ぴくりとも動こうとはしなかった。  清淳は欄干にもたれ、ぼんやりと天守閣の金色に輝く鴟尾(しび)を眺めている。  このお濠が皇居であったなら、と彼は願う。  …
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短編連作小説『桜のすべて』 第二部 第四話 御所の北 寺町今出川上ル  その朝、玖珠子は古竹の花入に、青モミジを生けていた。  床の間には、福田平八郎の若鮎の掛け軸が飾ってある。  松江の部屋だった。 「いかがでしょうか?」  生け花の出来を、玖珠子が訊く。 「うん、まあ、ええやろ」  松江が答える。 …
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短編連作小説『桜のすべて』 第二部 第三話 御所の北 寺町今出川上ル 「あんたはんが、手島玖珠子さんか?」  泰淳の母の歌子が訊いた。 「は、はい」  玖珠子の声は、緊張で上ずっている。  旅館『塙屋』の帳場だった。  そこからは、廊下を挟んで厨房が見え、立ち働く板前や仲居の姿が見える。  塙屋は、御所・…
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短編連作小説『桜のすべて』 第二部 第二話 御所の北 寺町今出川上ル 「結婚してくれないか?」  泰淳が、シャンパンを一口飲んでから言った。 「えっ?」  玖珠子は驚きを隠せないでいる。  二人は、青山キラー通りにあるバーいた。  その夜、玖珠子と泰淳は、その店の近くにある四川料理屋で食事したのである。 …
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短編連作小説『桜のすべて』 第二部 御所の北 寺町今出川上ル ――花がさかりをむかえる前に。  京都御所の北、賀茂川の西、寺町通りの今出川を上ルと『本満寺』という日蓮宗の寺がある。  その境内に、一本の老いたしだれ桜がある。  時節になり、花笑む姿は、能の三番目物にみられるもの静かな舞踊を舞うシテの…
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連載13 桜のすべて 第一部 砧 「ですから、アポイントを取っていただかないと・・・・」  しごく事務的に、女は言う。 「重要なお話なんです」  執拗にとな瀬が喰いさがる。 「そう仰言っしゃられましても・・・・」 「お願いです。急いでいるんです」 「でも・・・・」  汐留にあるテレビ局の受付だった。 …
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連載12 桜のすべて 第一部 砧  その朝、とな瀬が家事をしていると弟子の美加が訪ねてきた。  尊に頼まれて、信楽焼の花器を取りにきたのだという。  それは表向きの理由で、彼女の意志で来たようだった。 「とな瀬さん、最近、変わりましたね」  美加がおもむろに言った。 「そう?」  とな瀬が訊く。 …
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連載11 桜のすべて 第一部 砧  ――・・・・私は一体、何をやっているのだろう。  とな瀬は今、青山にあるカフェのオープン席にいた。  時刻はすでに夕刻で、246を家路に急ぐサラリーマンやOLの姿が見える。  その日、彼女は家に一人でいるのが嫌で、ふらふら当てもなく、東京の街を彷徨っていたのである。  先日…
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連載8 桜のすべて 第一部 砧  とな瀬は、キッチンで忙しなく動き回っていた。  その夜、尊の弟子の大山美加の誕生会が行われることになっていて、その準備のために立ち働いていたのである。  美加は先週、二十二になった。  尊には弟子が六人いて、他にもアシスタントが四名いたのである。  誕生会は、蛯沢の家…
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連載5 桜のすべて 第一部 砧    悪の華 「躰の調子悪いの?」  蛯沢フロラは、カシスのシャーベットを食べながら訊いた。  「どうして?」  とな瀬がティ-カップを置いて、彼女を見る。  二人は銀座にあるパーラーにいた。 「ひどく顔色が悪いわ」  フロラは、尊と前妻の間にできた娘だった。  彼女の…
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連載3 桜のすべて 第一部 砧(きぬた)  その朝、とな瀬は尊と一緒に散策にでかけていた。  無論、ボリスの運動を兼ねてである。  午前中、夫は仕事がなかったので、むずがるのを彼女が無理に連れ出したのだった。  二人は、桜の森の下にいる。 「来春・・・・」  ソメイヨシノを見上げて、ぼそっと尊が言う。 「…
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連載2 桜のすべて 第一部 砧(きぬた)  その夜、蛯沢尊(みこと)と香眞俊作(かりましゅんさく)は、恵比寿の蕎麦屋にいた。  閉店間際の時間だったので、彼らの他に客はない。  どの街にでもある普通の蕎麦屋だった。  その店の近くで、香眞は『花香』という花屋を営んでいる。  二人は、板わさ、玉子焼き、焼き海苔…
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連載20 薪御能      背約  ちぇっと舌打ちし、安念は恨めしそうに空を見上げる。  深川鼠色をした空からは、南洋の孤島の驟雨のような、激しい雨粒を今も降らせている。  その日、高輪のホテルで、名古屋教授の出版記念パーティがあって、彼は招待されていたのだった。  書籍のタイトルは『中世近江猿楽の…
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連載18 薪御能      ※  真砂子は安念と逢うたびに抱かれた。  それは、デートといえる代物ではなく、ホテルの喫茶室で待ち合わせをし会話などそこそこに、すぐに部屋に入って、ベッドインするか、安念の自宅にある稽古場で稽古をただぼんやりと眺めてから、彼の部屋に連れ込まれて、肉の交わりが始まるという繰り返しだったのである。…
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連載16 薪御能  この爺さんは、おれの肉体が目的なんだろうか、と安念は漠然と考えていた。年老いた関白二条良基が、若く美貌の藤若(世阿弥)に恋い焦がれたように。 「それは、やはり世阿弥が舞いを最重要視したからじゃないだろうか?」  そんな安念の思いなど何も感じない風に、名古屋は続ける。 「と、言いますと?」  …
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THE 読物 ~東 月彦の小説~

連載13 薪御能  真砂子は毎晩、安念の自宅に電話しては、彼の、もしもしという声を聞いては、素早く切っていた。  彼女は受話器を置いても、なお、どきどきする胸の鼓動を押さえることが出来ず、しばらくはその場にぼんやりと佇むだけだったのである。  安念の開設しているホームページを見たくて、機械オンチの真砂子ではあったが…
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THE 読物 ~東 月彦の小説~

連載12 薪御能    破倫 「お久しぶりね」  女が言った。 「そうですね。お元気そうで何よりです」  安念は、女の言葉が素直に取れなくて、相手に分からないように口唇の端を歪める。 「あなた、少しお太りになった?」  女は宗家の一人娘の糸子だった。  彼女は決して美人とはいえなかったが、笑うとふっくらと…
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